個人事業主の年金対策4制度を比較|始め方と将来の受取額を解説

ただ、4つとも入ればいいわけではありません。掛金の上限が共有されていたり、向き不向きがあったりします。
この記事では、社労士として手続きを支援し、自分もフリーランスを3年やった私が、4制度の違い・併用ルール・始め方・受取時の税金まで具体的に整理します。自分に合う組み合わせが決められるはずです。
個人事業主の年金は国民年金だけ?まず知っておきたい基本

まず土台の話から。個人事業主・フリーランスは会社員と違い、厚生年金には入れません。入れるのは国民年金だけです。
個人事業主・フリーランスが加入する年金とは
個人事業主は国民年金の「第1号被保険者」になります。加入義務があるのは20歳以上60歳未満の日本在住者です。
保険料は所得に関係なく一律。2025年度(令和7年度)は月額17,510円です。1年分前納で約4,000円、2年分前納で約15,000円の割引があります。
40年間(480か月)満額納めると、老齢基礎年金は月額6万9,308円(2025年度)。令和8年度には月額70,608円へ引き上げ予定です(昭和31年4月2日以降生まれ)。
会社員(厚生年金)と比べた将来の不足額のイメージ
会社員は国民年金(基礎年金)に厚生年金が上乗せされます。個人事業主は、この上乗せ部分が丸ごとありません。
つまり満額でも基礎年金の月6万9,308円が基本。ここが、いわゆる「2階部分」が空いている状態です。
正直に言うと、これだけで老後を回すのは厳しい。だからこそ自分で2階を作る必要があります。
老後の生活費はどのくらいかかるのか
必要額は世帯や暮らし方で大きく変わります。確実な共通額を断言できる材料はありません。
なので私は逆算をおすすめします。今の生活費から年金見込み額を引き、足りない分を上乗せ制度で埋める。この考え方が現実的です。
個人事業主が使える年金の上乗せ制度を比較
上乗せの選択肢は主に4つ。iDeCo、国民年金基金、付加年金、小規模企業共済です。順に特徴を見ていきます。

iDeCo(個人型確定拠出年金)の特徴
iDeCoは自分で掛金を積み立て、金融商品で運用し、60歳以降に受け取る私的年金です。
掛金上限は月額68,000円(年額816,000円)。掛金は全額所得控除、運用益は非課税、受取時も控除の対象になります。
注意点は、国民年金基金や付加保険料を払っている場合、それらと合算で月68,000円までという点。枠は共有です。
国民年金基金の特徴
国民年金基金は、第1号被保険者だけが入れる公的な上乗せ年金です。会社員の厚生年金に近い位置づけと考えてください。
掛金上限は月額68,000円で、iDeCoと合算の枠。終身年金や10年確定年金など7タイプから選べます。
掛金は全額所得控除、受取時は公的年金等控除の対象。運用を自分でしない分、iDeCoより手間がかからないのが特徴です。
付加年金の特徴
付加年金は地味ですが、私が一番すすめやすい制度です。国民年金保険料に月400円を上乗せするだけ。
将来「200円×納付月数」が毎年加算されます。10年(120か月)納めれば年額2万4,000円の増額です。
2年受け取れば元が取れる計算。第1号被保険者なら、まずこれは付けておいて損がありません。
小規模企業共済の特徴
小規模企業共済は、中小機構が運営する個人事業主向けの退職金制度です。廃業や引退に備えてお金を積み立てます。
掛金は全額所得控除の対象になり、節税効果が大きいのが魅力。低金利の貸付制度も使えます。
どの制度を選ぶ?メリット・デメリットと併用ルール
4制度はそれぞれ性格が違います。ここを混同すると「枠が足りない」「思ったより増えない」となりがち。整理します。

制度ごとのメリット・デメリット一覧
| 制度 | 掛金の目安・上限 | 主なメリット | 主なデメリット |
|---|---|---|---|
| iDeCo | 月5,000円〜68,000円(合算) | 掛金が全額所得控除・運用益非課税 | 運用リスクあり・原則60歳まで引き出せない |
| 国民年金基金 | 月68,000円まで(合算) | 公的年金で安定・終身年金を選べる | 自分で運用益を狙えない・予定利率は固定 |
| 付加年金 | 月400円 | 2年で元が取れる・手続きが簡単 | 増額幅は小さい・国民年金基金と併用不可 |
| 小規模企業共済 | 月1,000円〜70,000円 | 全額所得控除・退職金代わり・貸付あり | 短期解約で元本割れの恐れ |
正直、付加年金と小規模企業共済は「入れるなら入る」で迷う余地が少ない。判断が分かれるのはiDeCoと国民年金基金です。
iDeCoと国民年金基金の掛金上限の関係
ここが一番つまずくポイント。iDeCoと国民年金基金は、別々に68,000円ずつ使えるわけではありません。
2つ合わせて月68,000円までです。例えば国民年金基金に4万円かけたら、iDeCoは残り2万8,000円が上限になります。
さらに付加年金(月400円)を付けると、その分iDeCoの枠が削られます。付加年金と国民年金基金は同時には入れません。
制度選びの優先順位と組み合わせ方
私の考える優先順位はこうです。まず付加年金。次に小規模企業共済。その上で余力があればiDeCoか国民年金基金。
運用して増やしたい・自分で商品を選びたいならiDeCo。値動きが嫌で、決まった額を終身で受け取りたいなら国民年金基金。ここは性格で選んで構いません。
小規模企業共済とiDeCoは枠が別なので、両方フル活用すると節税インパクトが大きくなります。
始め方と費用:加入手続きの流れと掛金の設定例

制度が決まったら手続きです。窓口が制度ごとに違うので、ここでまとめておきます。
各制度の申し込みの流れと必要書類
| 制度 | 申込窓口 | 主な必要書類 |
|---|---|---|
| iDeCo | 運営管理機関(銀行・証券会社など) | 本人確認書類・基礎年金番号・口座情報 |
| 国民年金基金 | 国民年金基金連合会・各基金 | 加入申出書・基礎年金番号・口座情報 |
| 付加年金 | 市区町村の国民年金窓口 | 年金手帳または基礎年金番号・本人確認書類 |
| 小規模企業共済 | 中小機構の委託金融機関・商工会等 | 契約申込書・確定申告書の控えなど |
付加年金は役所の窓口で申し出るだけ。私が手続きしたときも10分で終わりました。一番ハードルが低いです。
掛金はいくらから?費用の目安
始めるための金額感はこうです。付加年金は月400円。iDeCoは月5,000円から。小規模企業共済は月1,000円から。
国民年金基金は選ぶ年金タイプと年齢で決まります。いきなり上限を狙わず、無理なく続く額で始めるのが正解です。
年代・収入別の掛金と将来受取額のシミュレーション
正確な将来額は運用結果や予定利率で変わるため、確定額の試算は出せません。ただ、付加年金だけは計算が単純です。
20歳から60歳まで40年(480か月)付加年金を払うと、毎年「200円×480=96,000円」が上乗せ。払った保険料は400円×480=19万2,000円で、2年で取り戻せます。
40歳から20年(240か月)でも、毎年4万8,000円の上乗せ。始めるのが遅くても、付加年金は効率がいいんです。
受け取り方と税金:得する出口戦略を知る
見落とされがちなのが出口、つまり受け取るときの税金です。入口の節税だけ見て、出口で損する人がいます。

掛金が全額所得控除になる節税メリット
iDeCo・国民年金基金・小規模企業共済は、いずれも掛金が全額所得控除。確定申告で所得を圧縮できます。
所得税・住民税が軽くなる効果は、所得が高い人ほど大きい。ここは4制度に共通する強みです。
一時金で受け取るか年金で受け取るか
iDeCoや小規模企業共済は、一時金(まとめて)か年金(分割)かを選べます。これで税金の扱いが変わります。
一時金は退職所得控除、年金は公的年金等控除の対象。どちらが得かは、他の退職金や年金との兼ね合いで決まります。
受取時にかかる税金の比較
| 受取方法 | 適用される控除 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 一時金で受け取る | 退職所得控除 | 他に退職金が少ない人 |
| 年金で分割して受け取る | 公的年金等控除 | 公的年金が少なく枠に余裕がある人 |
私のおすすめは、複数の制度の受取時期をずらすこと。同じ年に一時金が集中すると控除を使い切れず、税負担が増えます。
資金繰りが苦しいとき・働き方が変わったときの注意点
フリーランスは収入の波があります。払えなくなったときどうするか、先に知っておくと安心です。

掛金の減額・支払い停止・解約の注意点
iDeCoは掛金の減額や停止(拠出をやめる)が可能。ただし口座管理手数料はかかり続けます。
小規模企業共済は増額・減額ができますが、短期で解約すると元本割れの恐れがある。ここは要注意です。
国民年金基金は途中解約ができません。やめる場合は掛金の納付を止める形で、それまでの分は将来受け取ります。
国民年金の任意加入・追納・免除制度の活用
土台の国民年金もできるだけ満額に近づけたい。納め忘れがあるなら追納、所得が低い時期は免除や猶予を使えます。
60歳までに480か月に届かない場合は、60歳以降65歳未満の任意加入で増やせます。基礎年金は終身なので、ここを埋める価値は高いです。
廃業・法人成り・会社員に転身した場合の取り扱い
働き方が変わると扱いも変わります。小規模企業共済は廃業時に共済金を受け取れる設計です。
会社員になり厚生年金に入ると、第2号被保険者へ。国民年金基金は資格を失い、iDeCoは掛金上限が変わります。法人成りも同様に区分が変わるので、移行のタイミングで枠の見直しが必要です。
【独自視点】よくある失敗と制度選びの意思決定フロー

ここからは現場で見てきた失敗と、私なりの判断軸です。教科書には載っていない部分を厚めに書きます。
お金が残らない節税に注意
一番多い失敗が、節税につられて掛金を上げすぎること。所得控除で税は減っても、手元の現金は確実に出ていきます。
iDeCoは原則60歳まで引き出せません。生活費や事業資金を削ってまで満額にするのは、私は勧めません。
インフレや運用リスクという落とし穴
iDeCoは運用次第で増えも減りもします。国民年金基金は予定利率が固定なので、インフレで実質価値が目減りする可能性があります。
どちらにもリスクがある。だから1つに全額を寄せず、性格の違う制度を組み合わせるのが現実的です。
NISAなど年金以外の手段との使い分け
老後資金はiDeCoだけでなくNISAも選択肢です。NISAはいつでも引き出せる代わり、掛金の所得控除はありません。
私の整理はこう。所得控除でしっかり節税したいならiDeCoや共済、途中で引き出す可能性を残したいならNISA。流動性で使い分けます。
配偶者・家族を含めた世帯での対策
見落とされがちなのが配偶者の年金。配偶者も第1号なら、それぞれが付加年金やiDeCoを使えます。
世帯で枠を二重に活用すれば、上乗せ余地は単純に倍。家族単位で設計すると効率が上がります。
個人事業主の年金に関するよくある質問
最後に、窓口でよく受ける質問をまとめます。

よくある質問
まず役所で付加年金。これが今日できる一歩です。そのうえで、運用したいならiDeCo、安定なら国民年金基金、退職金代わりに小規模企業共済を足していく。順番を間違えなければ、無理なく2階は作れます。
